日本郵便、米輸入規制の手続代行を取次開始へ=義務化で膨らむ需要は中小代行の追い風に

Published On: 2026-10-05|Last Updated: 2026-10-02|Tags: , , , |Categories: インサイト|By |

日本郵便は10月9日、米国輸入規制に係る登録・申請などの手続代行サービスの取次を始める。実務は同社が選定したアラウンド・ザ・ワールド(ATW)が担う。巨大企業の参入は中小の代行業者を脅かすようにみえるが、米国の規制義務化で代行需要が急拡大するなか、むしろ代行市場全体の追い風となる公算が大きい。

目次

  1. 日本郵便は「取次」、手続代行の実務はATW1社
  2. 米国規制の厳格化が代行需要を押し上げる
  3. 「脅威」より「需要拡大」、不利益が限定的な理由
  4. 専門特化の中小に商機、市場は本格形成へ

日本郵便は「取次」、手続代行の実務はATW1社が担う

この取次が生まれた背景には、米国の輸入制度が相次いで厳格化した事情がある。米国は2025年8月29日、少額輸入の免税(デミニミス)を全世界で撤廃し、従来は免税だった800ドル以下の貨物も原則として関税・税・手続きの対象となった。JETROの分析によれば、低価格の直送モデルを前提としてきた事業者は、価格設計から通関体制までの見直しを迫られている。

製品の安全規制も強まった。CPSCが規制する製品では、2026年7月8日から、輸入前に適合証明データを米税関の電子システムへ電子申告(eFiling)することが義務化された。データが未登録だったり不備があったりすれば、荷物は税関で止められ、返送される。FDAが所管する食品・サプリメント・化粧品では、製造施設の登録、米国代理人の選任、発送前の事前通知(Prior Notice)などが求められる。

こうした登録は一度で完結しない。食品安全の専門家でLRQAサステナビリティ首席理事の今城敏氏は9月30日、FDAが9月29日に食品施設登録の隔年更新を呼びかけたとXで指摘した。

「更新期間は2026年10月1日から12月31日までで、期限までに更新しなければ登録は失効し、海外工場の食品は米国の港で留め置かれる。更新には施設の識別番号(DUNS)や米国代理人の情報が要る」

今城氏は、工場の衛生状態がどれほど良くても登録が切れれば車検切れの車と同じで通関できないとし、年末の駆け込みで番号の不整合に気づけば年明けの出荷が止まりかねないと注意を促した。

対米市場は日本の越境ECにとって中国に次ぐ規模で、米消費者の対日購入額は2024年に約1兆5000億円と推計される。ホビーやカメラ、アニメ関連など人気商材も多い。

その市場で、少額の品を扱う中小の出品者までが、新たに登録・申請への対応を迫られることになった。実務では、関税を受取時に購入者へ請求する着払い型から、販売者が税を織り込むDDP(関税元払い)型への移行も進み、価格設計や通関データの整備まで対応の幅は広がった。手続きは煩雑で専門性を要するため、外部の代行に委ねる需要は構造的に膨らんでいる。

米国規制の厳格化が代行需要を押し上げる

この取次が生まれた背景には、米国の輸入制度が相次いで厳格化した事情がある。米国は2025年8月29日、少額輸入の免税(デミニミス)を全世界で撤廃し、従来は免税だった800ドル以下の貨物も原則として関税・税・手続きの対象となった。JETROの分析によれば、低価格の直送モデルを前提としてきた事業者は、価格設計から通関体制までの見直しを迫られている。

製品の安全規制も強まった。CPSCが規制する製品では、2026年7月8日から、輸入前に適合証明データを米税関の電子システムへ電子申告(eFiling)することが義務化された。データが未登録だったり不備があったりすれば、荷物は税関で止められ、返送される。FDAが所管する食品・サプリメント・化粧品では、製造施設の登録、米国代理人の選任、発送前の事前通知(Prior Notice)などが求められる。

米国向け越境EC|少額免税と製品安全の制度変更

対米市場は日本の越境ECにとって中国に次ぐ規模で、米消費者の対日購入額は2024年に約1兆5000億円と推計される。ホビーやカメラ、アニメ関連など人気商材も多い。その市場で、少額の品を扱う中小の出品者までが、新たに登録・申請への対応を迫られることになった。実務では、関税を受取時に購入者へ請求する着払い型から、販売者が税を織り込むDDP(関税元払い)型への移行も進み、価格設計や通関データの整備まで対応の幅は広がった。手続きは煩雑で専門性を要するため、外部の代行に委ねる需要は構造的に膨らんでいる。

「脅威」より「需要拡大」、不利益が限定的な理由

巨大企業の参入は、中小の代行業者には逆風に映りやすい。だが、少なくとも4つの理由で不利益は限定的だ。

  • 第1に、日本郵便は代行そのものを行わず取次にとどまる。代行の仕事を直接奪うわけではなく、利用者が他社の代行を選ぶ道も閉ざされない。
  • 第2に、前述のとおり代行需要が構造的に拡大している。義務化で米国向けの中小セラーのほぼ全員が対応を迫られるなか、市場のパイそのものが大きくなる。
  • 第3に、受け皿となるATWは十数人規模にすぎず、日本郵便の膨大な顧客をすべて引き受けることは物理的に難しい。あふれた需要は、他の代行業者へと向かう。
  • 第4に、規制の存在すら知らずにいた出品者は多い。知名度の高い日本郵便の関与で「代行」というサービス自体が広く認知されれば、自力で手続きしていた層や米国向けを諦めていた層が顧客化し、市場の裾野は一段と広がる。

見落とされがちだが、日本郵便はこれまで特定の代行業者へ顧客を送客してはいなかった。つまり他社は、今回の取次で既存の販路を奪われるわけではない。失うものは乏しく、拡大する市場の恩恵は広く及ぶ。もっとも、日本郵便の信用とチャネルが唯一のパートナーであるATWに集中する点は、同社に小さくない先行優位を与える。それでも、義務化が生む需要の総量は、一社で賄える規模をはるかに超える。

専門特化の中小に商機、市場は本格形成へ

むしろ商機は、専門性で差別化できる中小にある。FDA登録を年間数百件手がける専門会社や、米国代理人・ラベル評価、食品安全計画、カリフォルニア州のProp 65対応などに強い業者はすでに各地に存在する。対応できる品目や規制の幅、価格、処理の速さ、さらにFedExやDHL、アマゾンの物流(FBA)など日本郵便以外の経路に紐づく利便性で、各社は独自の立ち位置を築ける。

日本郵便とATW社の組み合わせが標準の1つになるほど、それと異なる選択肢を求める需要も育つ。専門業者のなかには、JETROや自治体の輸出相談窓口と連携し、補助金の活用まで含めて支援する例もあり、価格以外の価値で選ばれる余地は小さくない。

米国の規制強化は、越境ECの現場に「通関・規制対応の代行」という新しい成長市場を生み出しつつある。日本郵便の取次開始は、その市場が本格的に立ち上がる号砲といえる。価格と送料で競う時代から、通関と規制対応をいかに設計するかへ。勝つのは、急増する需要に応えられる専門性を備えた事業者だ。

From October 9, Japan Post will refer customers to US import-compliance (CPSC, FDA) services run by Around The World, acting only as an intermediary. With US de minimis gone and CPSC e-filing now mandatory, almost every small Japan-to-US seller must handle new registrations, so demand is surging beyond what one small exclusive partner can absorb. Rather than hurting small agencies, the move expands the compliance-support market, where differentiated specialists can win.

この記事を書いた人

森 茂樹

元Web3ニュースメディア編集長。日本とオーストラリアで20年以上にわたり、記者・編集者、翻訳者、Webプロデューサーとして活動。日本ではエンタメ誌「ザテレビジョン」(KADOKAWA)ほか、豪州では「日豪プレス」の記者・編集者として従事した。

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