
米アマゾン、競合サイトの「値上げ」強要か―州当局訴訟で内部手法判明
米アマゾン・ドット・コムが、自社サイトの利幅を守るため、取引先(サプライヤー)に対しウォルマートなど競合ECでの販売価格を引き上げるよう不当に圧力をかけていた疑いが浮上した。英有力紙ガーディアンが21日、報じた。
米カリフォルニア州司法長官による反トラスト法(独占禁止法)違反訴訟の資料や元従業員の証言から判明した。複数モールや自社サイトを併用して売る「マルチチャネル」「越境EC」の事業者にとって、プラットフォーマーからの価格干渉は事業の根幹に関わる問題だ。
日本でも公正取引委員会が同種の疑いでアマゾン日本法人を立ち入り検査しており、出品事業者の価格戦略やチャネル運営の見直しを迫る動きとなっている。
「損失補償」か「他サイトの値上げ」か 迫られる出品者
ガーディアン紙によれば、アマゾンは長年、ウェブクローラーと自動アルゴリズムで競合の価格をリアルタイムに追従してきた。だが競合サイトで安値がつくと、同値追従により自社の利幅が削られる。裁判資料によると、採算が悪化した際、アマゾンはサプライヤーに「損失分の補償金支払い」「アマゾン向け卸価格の引き下げ」「他チャネルの管理(=競合サイトでの価格是正)」の3択を提示していた。
アマゾンでの販売停止や出品取り下げを恐れた多くの取引先は、競合サイトでの値上げか、競合からの商品引き揚げを選ばざるを得なかったという。ある家電メーカーは損失補償を求められた後、競合ECでのエアフライヤーを値上げした。価格協定のデジタル証拠を残さぬよう、重要交渉はメールを避け電話で行うよう社内で徹底していた疑いも指摘されている。
カリフォルニア州のボンタ司法長官は「言い換えても、競合の価格をアマゾンの高値まで引き上げさせる行為は違法な価格固定だ」と批判。アマゾンは「顧客に低価格を提供するための正当な交渉」として全面的に否定している。米連邦取引委員会(FTC)も別途提訴しており、主要審理は2027年初頭に始まる見通しだ。
日本の出品者にも同じ圧力か
この構図は、日本の越境EC・マルチチャネル事業者にとって「対岸の火事」ではない。日本国内でも、アマゾンをめぐる公取委の追及は現在進行形で進んでいる。
直近で最も重いのが2024年11月の動きだ。通販サイトの出品者に販売価格の引き下げや自社サービスの利用を強いた疑いがあるとして、公取委は24年11月26日、アマゾンジャパンを独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いで立ち入り検査した。問題視されているのは、出品者の売上を左右する「カートボックス(おすすめ出品)」の扱いだ。
商品ごとに優先表示する枠を割り当てる条件として、他の通販サイトより低い価格で販売することや、物流代行サービス(FBA)の利用を求めていた疑いがあるという。価格を下げない出品者からカートボックスをはく奪した例があったとの証言もある。
出品事業者の実務に引き付ければ、これは「アマゾンでカートを取るために、他モールや自社ECでも値下げを強いられる」構図にほかならない。複数チャネルで同一商品を売る事業者ほど、一つのプラットフォームの価格要求が全チャネルの価格設計に波及しやすい。米訴訟が描く「競合サイトの値上げ強要」と、日本のカートボックスを介した「価格そろえ要求」は、コインの裏表と言える。
越境EC事業者にとって見逃せないのは調査の射程だ。公取委は米アマゾン・ドット・コム本体についても、通販サイトのアルゴリズム設計などに関与しているとみて、今後調査に乗り出す方針だという。Amazon.comやグローバル・セリングを通じて海外へ売る日本の事業者も、こうしたアルゴリズムを介した価格干渉と無縁ではなく、国境を越えた規制の網がかかりつつある。
出品者を守る「盾」 優越的地位の濫用と透明化法
では出品側にはどんな備えがあるのか。手がかりは独占禁止法が「不公正な取引方法」(19条)として禁じる優越的地位の濫用と拘束条件付取引だ。
過去には金銭要求が問題視された前例がある。公取委は2020年9月、納入業者への協賛金名目の金銭提供や代金減額、返品を優越的地位の濫用の疑いがある行為として、アマゾンジャパンの確約計画を認定した。この計画では、対象の納入業者のうち約1400社に対し、総額約20億円と見込まれる金銭的価値の回復が行われることになった。ただし、確約計画の認定は、独占禁止法違反そのものを認定するものではない。
今回の米訴訟にある「損失補償の要求」も、日本で行われれば優越的地位の濫用に問われ得る行為類型だ。取引先の意に反した金銭負担の要求は、たとえ「協賛金」「補償」と名目を変えても対象になり得る点は、出品者が交渉時に押さえておきたい。
一方、取引先に競合サイトの価格を拘束する行為は、拘束条件付取引として捉えるのが実務的とみられる。米訴訟は「価格カルテル(不当な取引制限)」と位置づけるが、日本ではカルテルが競争者同士の合意を前提とするため、プラットフォーマーが取引先を介して他チャネルの価格を是正させる行為をどう評価するかは法解釈上の論点として残る。
事前規制も出品者の盾になる。巨大ITに取引条件の開示や運営状況の報告を義務付ける「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(取引透明化法)が2021年2月に施行され、総合オンラインモールなどが対象となった。
同法は、事後対応が中心の独占禁止法を補い、取引条件の不透明さなど事後では対応しにくい問題に事前規制で対処する狙いがある。取引の公正性が損なわれ独禁法上の「不公正な取引方法」に違反すると認められる場合には、経済産業大臣が公正取引委員会に適切な措置を要請できる仕組みも設けられている。出品者は、規約変更やカート付与条件の開示を求める根拠として、この枠組みを活用できる。
実務への示唆
今回の一連の動きは、出品事業者に対し、①各モールの価格・カート付与条件に関する要求を記録・書面化しておく、②「協賛金」「補償」など名目を問わず不本意な金銭負担の要求は優越的地位の濫用に当たり得ると認識する、③複数チャネルの価格を一律に拘束する要求には拘束条件付取引の論点があると理解する――といった点を促す。アルゴリズムと市場支配力を介した新しい価格支配に、日米の当局はそろって監視を強めている。米国での司法判断は、日本の出品環境や規制論議にも波及しそうだ。







