メルカリ、ポップカルチャー越境ECレポート公開―重心は高額コレクティブルへ

メルカリは8月7日、日本発のアニメやゲームなどの越境取引動向をまとめた「ポップカルチャー越境トレンドレポート 2026」を公開した。同社初のポップカルチャー特化分析では、越境取引件数の過半をポップカルチャー分野が占め、国・地域ごとに人気コンテンツが分かれる実態が示された。台湾では玩具「ベイブレード」が急伸し首位に立った。

この結果は、事業者にとって単なる人気動向にとどまらない構造変化を示唆している。

越境取引の過半数を占めるポップカルチャー

メルカリの越境事業は2019年に100以上の国・地域への販売として始まり、2026年6月期の越境流通総額(GMV)は1,122億円に達した。過去4年でおよそ19倍に拡大し、全体GMVの約9%を占めるまでに伸びている。

今回のレポートは、資本業務提携先である駿河屋の一部データも加え、2025年6月から2026年5月までの越境取引を分析したものだ。集計は自社プラットフォームと購入代行サービス経由の完了取引に基づく内部データであり、第三者検証を経ていない点には留意がいる。

その越境取引において、アニメやゲームなどのポップカルチャーは件数の56.9%を占める主力カテゴリーとなった。

カテゴリー別に見ると、トレーディングカードを除く「ゲーム・おもちゃ・グッズ」では「鬼滅の刃」が首位で、上位10位内に「週刊少年ジャンプ」関連作品が5点入った。取引されるグッズは「缶バッジ」や「フィギュア」、「アクリルスタンド(アクスタ)」などが中心だという。

一方、トレーディングカードでは「ポケットモンスター」が2位に約5倍の差をつけて突出し、上位には「Stray Kids」「SEVENTEEN」などK-POPアーティスト5組が並んだ。対戦・収集用のカードと、いわゆる推し活向けのフォトカードという、性質の異なる二つの需要が併存している構図だ。

国・地域で分かれる人気と、伸び率首位のベイブレード

国・地域別に最も取引の多いコンテンツを整理すると、傾向は大きく分かれた。米国・香港・フランスでは「ポケットモンスター」、台湾では「ベイブレード」、中国では「鬼滅の刃」、韓国では「サンリオ」がそれぞれ首位となり、世界共通の定番だけでなく、地域ごとに独自の需要が形成されている。

局地的なブームも目立つ。台湾では、強い機体を求める大人のSNS投稿がミーム化して124万回超の閲覧を集め、かつて遊んだ25〜35歳層を巻き込む流行に発展した。正規品の品薄を背景に、直近5カ月間で台湾からの取引件数は約44倍に急増したという。

北米では日本のレトロゲームが指名買いされ、「NEOGEO」ソフトは取引の46.3%が越境取引、SNKの格闘ゲームは海外比率が52.3%に達した。香港では当時の漫画雑誌が文化資産として高値で取引され、「ドラゴンボール」初掲載号が約199万円で購入された事例では、その1件で同日の香港向け越境流通額の13%を占めた。

伸び率でも「ベイブレード」が際立つ。2025年下半期と2026年上半期の比較で、取引件数が前年同期のおよそ4.4倍(プラス342.5%)となり首位に立った。世界大会の相次ぐ開催が需要を押し上げたとみられる。

2位は「僕のヒーローアカデミア」、3位は「呪術廻戦」で、アニメの新展開が越境需要の急伸につながる構図が浮かぶ。海外の購入者が日本の商品を選ぶ動機として、レポートは日本限定品などの希少性、日本版特有の品質と正規品への信頼、そして円安を背景とした価格優位性の3点を挙げた。

米デミニミス廃止が変えた越境ECの採算

このレポートが描く好調な越境需要を事業者の視点で読み直すと、数字の裏で3つの構造変化が同時に進んでいることが見えてくる。

第一が、米国の関税制度の転換である。

レポートの対象期間である2025年6月から2026年5月までの途中、米国では少額輸入免税制度、いわゆるデミニミスが廃止された。同国はこれまで申告額800ドル以下の輸入貨物について関税を免除し、簡素な通関を認めてきたが、2025年7月の大統領令を経て同年8月29日にこの枠組みが撤廃され、金額の大小を問わず全ての輸入品が課税対象となった。

背景には、中国発の格安EC事業者による少額貨物の急増と、それに伴う偽造品や規制薬物の流入への警戒がある。

影響は品目によって非対称に及ぶ。缶バッジやアクリルスタンドといった低単価グッズは、1件ごとに関税と申告手続きのコストが上乗せされ、米国向けの採算が悪化した。単価が低いほど、固定的に発生するコストの相対的な重みは増す。

米国税関・国境警備局は25年12月の時点ですでに、当局がデミニミスの抜け穴の段階的廃止を開始して以来、2億4,600万件超の低額貨物に対して10億ドル超の関税を徴収し、これまで未回収だった記録的な額の歳入を取り戻したと報告している。

一方、高額なトレーディングカードや希少な旧刊誌といった商材は、関税額が商品価格に占める比率が小さく、免税廃止の打撃を受けにくい。

レポートで米国首位に立つポケモン関連でも、安価なグッズと高額カードとでは制度変更後の耐性が大きく異なる。示された需要拡大は、この逆風が吹き始めた局面での結果である点を踏まえて読む必要がある。

揺らぐ円安という価格優位の前提

第二の変化は、価格優位性を支えてきた円安そのものの反転である。

レポートは購買動機の1つに、円安傾向や国内定価の水準を背景に、国際送料を含めても現地の二次流通市場より安く入手できる点を挙げた。しかし、この前提はいま可変的な要素へと変わりつつある。

2026年7月末、日米両当局は協調して円買い介入に踏み切った。ドル円相場は163円台から一時155円台まで急落し、その後は158円前後で推移(10日現在)している。円安はこれまで日米の金利差を背景とした構造的な円売り圧力に支えられてきたが、当局が介入姿勢を明確にしたことで、一方向に進むという前提は崩れつつある。

価格優位性は円安という条件に支えられた一時的な競争力にすぎず、為替の反転局面では最初に崩れうる。

ここに先の関税問題が重なる米国では免税廃止で関税が上乗せされたうえ、円高方向への振れが加われば、送料を含めても安いという日本発商品の訴求は二重に目減りする。価格の安さを主たる動機としてきた低単価グッズほど、この二重の圧力には脆弱だと言える。

とりわけ米国は関税と為替の双方が同時に効く点で影響を受けやすく、希少性主導の需要が厚い台湾や香港とは、逆風の当たり方が異なる

真贋保証が支える高額コレクティブルの越境取引

第三の変化は、高額品の取引を成立させる真贋保証の広がりである。レポートは香港の199万円取引を「文化資産」と紹介したが、事業者の関心はむしろ実務にある。高額な二次流通品の越境には、申告価格の設定、保険付き配送、そして真贋の確認という、低単価グッズとは異なる手続きが伴う

とりわけ真贋確認の比重が増している。トレーディングカード市場では第三者鑑定機関によるグレーディングが事実上の共通言語となり、鑑定済み商品は本物と保証されるため、高額でも安心して取引できると認知されている。

鑑定にはPSAやBGSといった大手機関が関与し、10段階の評価が価格と換金性を大きく左右する。この価値づけの構造は、鑑定機関自身の発信からも読み取れる。米鑑定大手PSA(Professional Sports Authenticator)は、比較的地味なポケモンカードを鑑定した事例を公式Xで次のように紹介している。

ポケモン屈指の希少カードのひとつは……コラッタ? 本当だ。WiiWare『ポケモンランブル』と連動した特別コレクションで配布されたこのカードは、通常のイラストの代わりに、ゲーム内のずんぐりしたゼンマイ仕掛けのモデルを描いている。一般的な意味で最も美しいポケモンカードではないかもしれない――なにしろコラッタだ――が、ポケモンゲーム史のある特定の一章を映し出している。PSA10、認定個体数はわずか12枚。トレカ見本市「The National」の会場で鑑定した。

最高評価のPSA10がわずか12枚という「認定個体数(ポップ)」の希少性こそが、平凡にも見えるカードを収集対象へと押し上げている。カードそのものの美しさや人気ではなく、鑑定による格付けと個体数が、商品の価値と換金性を規定する単位として機能している構図だ。精巧な偽造品が流通しうる高額帯だからこそ、鑑定証明が信頼と流動性を担保する仕組みとなる。

日本版商品が印刷品質や封入仕様の面で高く評価されてきた素地に、第三者鑑定の保証が重なることで、高額品が国境を越える下地が整う。

三つの変化を重ねると、一つの方向性が浮かぶ。米国の関税制度は低単価の「量」を圧迫し、為替の反転は価格優位性を侵食し、真贋インフラの成熟は高額の「希少性」を後押しする。作用の向きは異なるが、いずれも越境需要の重心を、薄利多売の小口グッズから、通関と真贋の実務を伴う高単価コレクティブルへと押し動かす方向に働く

メルカリのレポートが示した旺盛な需要は、その追い風だけでなく、取引構造の静かな移り変わりをも映していると読める。事業者にとっては、取扱単価と手数料構造の見直し、鑑定・保険・通関体制の整備、そして直販とするか購入代行を介するかという販路設計が、次の競争力を左右する論点になる。

単価が上がるほど、通関申告や返品対応、真贋トラブルの責任範囲を誰が負うかが問われ、チャネル選択は単純な価格競争から実務品質の競争へと軸足を移していく。各国の規制動向や物流コストの変化が、こうした取引の持続性を左右する要因となりそうだ。