
三井不動産系mitaseru、冷凍グルメのシンガポール販売が好評—海外展開への壁をどう乗り越える?
三井不動産グループのmitaseru JAPANは29日、冷凍グルメ「mitaseru」のシンガポール向け販売と、現地消費者380人へのアンケート調査結果を発表した。「日本の有名レストランの料理を冷凍で自宅へ届ける」というコンセプトに対して、96%以上が魅力を感じると回答し、海外における日本食文化への関心の高さが改めて示された。一方、参画飲食店へのヒアリングでは海外販売に「興味がある」との回答が約85%に上ったものの、実際に海外展開へ踏み出せている個店は少ない。需要の高さを実売につなげるには、コールドチェーンの整備や輸出先の輸入規制対応など、事業者が越えるべき実務上の壁がある。
シンガポール実証で確認された海外需要の大きさ
mitaseru JAPANは、シンガポールのECサイト「J PASSPORT」を通じた冷凍グルメ「mitaseru」の販売と、登録ユーザー380人へのアンケートを実施した。「日本の有名レストランの料理を冷凍で自宅へ届ける」というコンセプトに96%以上が魅力を感じると回答し、評価点としてレストラン品質の食事を自宅で楽しめることや、日本の食材・品質への信頼感が挙げられた。同調査では、単に日本食への関心だけでなく、「温めるだけで食べられること」への受容性の高さや、子育て世帯では帰宅した子どもが自分で調理できる商品への需要も確認されており、購入層に応じて商品設計上の訴求点が変わりうることも示唆されている。
シンガポール労働省の統計では25~54歳女性の労働力参加率が86.2%に達しており、調理の手間を減らせる食品への需要が高い就労環境も、こうした結果を後押ししたとみられる。なお、回答者はJ PASSPORTの登録ユーザーに限られており、日本食への関心が相対的に高い層を対象にした結果である点は留意しておく必要がある。一方、mitaseru JAPANが参画飲食店に行った調査では、海外販売について「大変興味がある」が45%、「興味がある」が40%で、合わせて約85%の店舗が意欲を示した一方、「特にない」も15%を占めた。

ただし、「実際にどれだけの店舗が海外展開を実行に移せるか」については、同調査だけでは不透明な部分もある。
ジェトロの2025年度アンケート調査では、海外ビジネスを行う企業のうち85.2%が海外展開を担う人材の「不足」を訴え、中小企業ではその割合がさらに高い。対象は企業一般であり飲食店個店を対象にした調査ではないが、意欲があっても実行体制が伴わないという構造は、個店やスモールビジネスの海外進出にも当てはまるだろう。
SHOPLINE Japanの宮内瑞紀氏は30日、」タナベコンサルティング調査、海外展開率に売上規模で43%超の格差。「2026年度海外事業に関するアンケート」によると、売上高300億円以上の企業の海外展開率は82.1%に対し、50億円未満の企業では38.7%。進出検討地域もASEAN一極から米・印へ多様化している」とXに投稿している。
日本産冷凍食品が海外で支持される背景
日本産の食品・農林水産物への支持は数字にも表れている。農林水産省の発表によれば、2025年の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円と前年比12.8%増加し、13年連続で過去最高を更新した。このうち加工食品は5,724億円で前年比7.2%増と、着実に拡大している。背景には、訪日外国人の増加による日本食への接点拡大がある。
この点は自民党も認めている。
観光庁のインバウンド消費動向調査では、訪日外国人の98.2%が滞在中に日本食を経験し、95.2%が「満足した」と回答した。農林水産省の調査によると、海外の日本食レストラン数は2025年時点で約18.1万店に達し、2013年の約5.5万店から3倍超に増えている。
加えて、急速冷凍による品質保持技術は日本の輸出産業の強みとされ、ジェトロの分析でも、超低温での冷凍技術が鮮度と品質を維持したまま長距離輸送を可能にする例として紹介されている。また、東日本大震災で大きな被害を受けた地域が、震災の復興過程で冷凍・省人化技術など最新技術を一気に普及させる「転換点」を作ったという背景もある。
シンガポール向けに限ると、農林水産省の資料では2024年の農林水産物・食品輸出額が557億円だったことが示されており、東南アジアの中でも日本産食品の受け皿として一定の規模を持つ市場であることがうかがえる。
冷凍食品の越境ECを阻む3つの実務上の壁
需要が確認されても、冷凍食品の海外販売を個々の店舗で展開するのには壁があるのも事実。
国土交通省と農林水産省が取りまとめた物流課題の資料は、農林水産物・食品輸出の物流上の課題として、コールドチェーンの整備、鮮度保持のための包装資材との組み合わせ、輸送コンテナの性能という3点を挙げている。冷凍食品は生産地から消費地まで低温を切らさず運ぶ必要があり、国内区間・海上輸送・現地区間のいずれかで温度管理が途切れれば品質劣化につながる。
同資料では、さらに、個店単位では輸出量が小口にとどまりやすく、積載効率を高める集荷の工夫や、輸出先から日本への戻り荷を含めたループ単位での物流設計が必要になる点、海外市場で日本産同士が産地間競争に陥りやすい点も課題として挙げている。
海外販売への関心が高い個店の多くが実行に踏み出せない背景には、こうした構造的な非効率を自前で解消する体力の不足があるとみられる。

輸出先の輸入規制が課す追加のハードル
輸出先ごとの規制対応も見過ごせないだろう。
シンガポールでは、食肉・水産物を輸入する事業者は、シンガポール食品庁(SFA)から輸入ライセンスを事前に取得する必要があり、取得には法人登録番号(UEN)や口座情報の提出、年間84シンガポールドルの費用がかかる。
また、冷蔵・冷凍設備を持つ食品貯蔵倉庫や食品加工施設を現地に設ける場合は、食品販売法に基づく食品事業所ライセンスの取得が別途求められる。品目によって管轄や必要書類、ラベル表示規制が異なるため、加工食品として扱われる冷凍調理品と、生鮮の食肉・水産物とでは手続きの負担も変わる。
ジェトロの輸出入手続きの解説によれば、肉類や同製品はSFAが認定した生産国の認定生産者からしか輸入できないという条件もあり、名店の料理を再現するメニューに使う原材料次第で、必要な手続きが分岐しうる。個店が単独でこうした規制を調べ、現地倉庫やライセンスを確保するのは容易ではなく、この点が海外進出の障壁として立ちはだかっている。
冷凍グルメの越境EC事業を軌道に乗せるための実務対応
以上を踏まえると、冷凍食品の海外販売を機能させる鍵は、個店の商品力を、コールドチェーンと現地規制対応を担うプラットフォームにどう接続するかにある。mitaseru JAPANの実証は、自社で現地ECサイトへの出品と物流手配を担い、個店は商品供給に専念する分業モデルを取った点で、この接続の一例といえる。

海外販売を手がける事業者にとっての実務対応としては、次の3点が挙げられる。
- 輸出先国のSFAのような食品当局の規制を品目単位で事前に確認し、ライセンス取得や倉庫確保にかかる期間をスケジュールへ組み込む
- 複数の個店の商品を束ねて輸送することで、小口貨物のままでは実現しにくい積載効率とコストの改善を図る
- 現地消費者調査を通じて「手軽さ」と「品質」のどちらを重視する市場かを見極め、商品設計や訴求軸を調整する
ジェトロは専門家が輸出計画から販路開拓まで伴走する輸出プロモーター事業を提供しており、水産物問屋など単独では海外展示会への参加や商談が難しい事業者の販路拡大を支えてきた実績がある。冷凍グルメの海外販売でも、こうした公的支援と民間プラットフォームの物流網を組み合わせることで、個店が抱える資金・人材の制約を補える余地は大きい。
今回の実証が示した96%という支持率は、需要の裏付けにはなるが、それだけで海外販売が続くわけではない。物流と規制対応を代替する仕組みを整えられるかどうかが、個店の味を海外の食卓まで届けられるかを分ける分水嶺となる。
Mitsui Fudosan’s mitaseru JAPAN found strong Singapore demand for frozen Japanese restaurant meals, with 96% of 380 surveyed consumers liking the concept. But government trade and logistics data show demand alone rarely gets small restaurants selling abroad: unbroken cold chains, consolidated shipping, and destination-specific import licensing, such as Singapore’s SFA rules, remain real barriers. Mitaseru’s model of centralizing logistics and compliance offers one workable template.




