米国のトランプ政権が9月24日にワシントンで開いた3回目の米中首脳会談を受けて公表したファクトシート

米中首脳会談「貿易休戦」延長、文書に不記載|対日関税の宙づりが越境ECに影を落とす

Published On: 2026-09-28|Last Updated: 2026-09-28|Tags: , , |Categories: インサイト|By |

Title photo courtesy of White House

日本貿易振興機構(ジェトロ)は28日、米国のトランプ政権が9月24日にワシントンで開いた3回目の米中首脳会談を受けて公表されたファクトシートの内容を伝えた。ジェトロによると、両首脳は貿易・投資両委員会の稼働に合意し消費財を中心に優遇関税を適用する方針を示した一方、11月10日に迫る関税・輸出規制の一時停止措置の延長については公式文書での明記を避けたという。優遇対象の消費財は越境ECの主力商材と重なる一方、対日関税は通商法301条に基づき12.5%のまま宙づりが続いており、日本発の越境EC事業者は価格競争条件の変化への備えが求められる。

貿易・投資の両委員会が始動、消費財に優遇関税

ファクトシートによると、両首脳は9月21日の週から、5月の首脳会談で設立を決めていた貿易委員会と投資委員会の運用を開始した。貿易委員会の下では、経済安全保障上重要でないと位置付けた品目について、双方向でそれぞれ300億ドル相当、合計600億ドル相当により有利な関税率を適用することで合意した。

対象は、米国からの輸出では農産品や魚介類、丸太・木材製品、化粧品、医療機器など。米国への輸入では、小型家電、玩具、祝日用装飾品、チャイルドシートといった消費財が含まれる。同委員会の下には、農業分野の市場アクセス障壁解消に向けた作業部会も新設し、中国は2027年と2028年にそれぞれ少なくとも1,000万メートルトンの米国産石炭を購入するとした。

投資委員会は、投資機会や投資関連の障壁を協議し、商業的に重要な投資案件に対応する枠組みを両国に提供することが目的とされる。レアアース(希土類)など重要鉱物の供給を巡る米国側の懸念については、「出荷量を適切な水準に戻すことを目指す」との表現にとどまり、具体的な数量や期限は示されなかった。同分野の輸出規制緩和は5月の首脳会談で合意した措置の一部で、電子機器や自動車部品の調達に関わる企業にとって関心の高い論点となる。

ジョージタウン大学の研究者で、外交問題評議会(CFR)や国家安全保障会議(NSC)中国部長を務めた経験を持つラッシュ・ドシ氏は同会談直後、「米中双方が習近平国家主席にレアアースという交渉上の優位性があると認識している点を指摘し、実態がより複雑であっても、その認識自体がそのまま現実になっている」と論じた。

ファクトシートが出荷量の数値や期限を示さなかった背景には、レアアースを巡っては中国が優位に立っているという見方を米中双方が共有していることを示唆sることとなった。

「貿易休戦」の延長は文書に触れず

焦点だった通商措置の一時停止(いわゆる貿易休戦)については、ファクトシートに記載がなかった。ベッセント財務長官は首脳会談前日の9月23日、中国の何立峰副首相との閣僚級協議を経て、休戦期限を従来の11月10日から2027年1月10日まで2カ月延長することで合意したと表明していた。

しかし、中国外務省の報道官は延長への同意を問われた際、担当部門への確認を促すにとどめ、中国側はこの期限を公式には確認していない。

両国とも公式文書にこの延長を明記していない状態が続く。同様に、5月の首脳会談で決まった中国によるボーイング製航空機や米国産農産品の購入も、今回の文書には記載がなかった。

米中会談に先立つ日米首脳会談、日本は安全保障で地ならし

米中首脳会談の2日前の9月22日(日本時間23日)、高市早苗首相とトランプ大統領はニューヨークの国連本部で約35分間会談した。3月19日にワシントンで行われた前回会談から約6カ月ぶりの開催で、24日に控えた米中首脳会談を念頭に、台湾情勢を含む中国を巡る諸課題について意見を交わし、日米同盟をさらに強化する方針を確認した。国際刑事裁判所(ICC)を巡っても意見交換したという。

この日米会談は安全保障分野が中心で、通商・関税を巡る協議には踏み込まなかった。

米中間では貿易・投資両委員会という制度化された協議の場が新たに設けられた一方、日本の対米通商協議は従来通り経済産業相と米通商代表部(USTR)代表の間の個別交渉にとどまっており、制度面での対応には差が生じている。

対日関税も宙づりのまま、通商法301条が新たな火種に

対米関税を巡っては、日本側も不透明な状況が続く。米連邦最高裁は2026年2月20日、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とした「相互関税」を違法と判断し、日本に適用されていた15%の税率は同月24日に失効した。政権は代替措置として通商法122条に基づく全世界一律10%の関税を導入したが、この代替関税も150日間の期限付きで、7月24日に失効。

同日、政権は強制労働対策の不備を理由に通商法301条に基づく新関税を60カ国・地域に発動し、日本には12.5%(一般関税率が12.5%未満の品目は合算で12.5%、12.5%以上の品目は301条関税なし)を適用した。

中国にも特例なしで同水準の12.5%が課される一方、欧州連合(EU)には10%の特例が設けられている。赤沢亮正経済産業相は9月4日にワシントンでグリアUSTR代表と会談し、2025年7月の日米合意を超える追加関税を課さないことを確認したが、USTRは製造業の過剰生産などを理由にした調査を継続しており、税率が最終的にどう決着するかは依然として見通せない。

自動車・レアアース・通信機器を巡る火種

投資委員会の設立が発表された一方、米国の自動車業界からは、中国メーカーが米国内で生産してもサプライヤーや部品調達を中国に依存する構造は変わらず、コネクテッドカーを巡る安全保障上の脅威は解消されないとの懸念が上がっている。両首脳は人工知能(AI)に代えて「スーパーインテリジェンス(SI)」という用語を用いることでも合意し、リスクや便益を議論する「米中SI対話」を新設した。次回の対話は2026年11月までに開く。今後の米中関係では、米連邦通信委員会(FCC)による通信機器の輸入・販売規制の扱いが次の焦点になるとみられている。

自動車部品や通信機器は、越境ECでも比較的単価の高い商材。自動車関連では、輸出向けのカスタムパーツやアクセサリーなどを扱う事業者にとって、米中間の投資・調達構造の行方は無関係ではない。通信機器については、FCCはすでに2025年末以降、中国製ドローンの新モデルの輸入を禁止し、2026年3月には外国製の民生用ルーターの新規輸入・販売を全面的に禁止した。

6月にはHuaweiやZTEなど「要注意機器リスト」掲載企業について、これまで輸入・販売が認められていた旧型機器も含めて認証を無効化し、9月には先端ロボット機器や電力インバーターの販売にも制限を設けており、規制の対象は段階的に広がっている。ドローンやルーター、監視カメラ、ロボット関連機器を扱う越境EC事業者は、今後どの品目が新たに規制対象へ加わるかを注視する必要がある。

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越境EC事業者への影響 ― 価格競争・供給網・制度面の三重の課題

今回優遇関税の対象となった玩具、小型家電、祝日用装飾品、チャイルドシートといった品目は、越境ECでもよく売れている商材と重なる。中国発の通販プラットフォームは、これらの品目を米国で売る際の関税負担が今後軽くなる可能性がある。

一方、日本発の同種製品には、通商法301条に基づく12.5%の関税がそのままかかり続ける。さらに、米国側は中国への関税をこれ以上上げない方針を示している。これに対し日本の関税は、2025年7月の日米合意の範囲をめぐる協議がまだ続いており、先の見通しが立てにくい。

つまり、中国には「今の条件がしばらく変わらない」という安心感があるのに対し、日本は「今後も条件が動くかもしれない」という不安を抱えたまま米国市場で戦うことになる。米国で価格競争をする事業者にとっては、関税の高さだけでなく、こうした先の見通しやすさの差も、競争条件を左右する要素になる。

供給網の面でも、レアアースの供給や、自動車・通信機器を巡る安全保障上の懸念は解決していない。電子機器や物流関連機器を仕入れる際のコストが今後どうなるか、見通しにくい状況が続く。加えて、関税・輸出規制の一時停止延長は口約束の段階にとどまり、公式文書には反映されていない。2027年1月10日を過ぎた後に関税や輸出規制がどうなるかも、まだ決まっていない。

中国を仕入れ先とする越境EC事業者は、今後関税が急に上がる可能性も想定し、価格設定を柔軟にしておくことや、仕入れ先を一国に集中させないことが、引き続き課題になる。

制度の面でも違いがある。米中間には、貿易・投資両委員会という、話し合いを続けるための恒常的な場ができた。一方、対日関税は、経済産業相とUSTR代表がその都度会って話し合うという、これまでと同じやり方が続いている。9月22日の日米首脳会談で話し合われたのも安全保障が中心で、関税の話は含まれていなかった。つまり日本は、米中が経済のルールを決めていく場に加わる仕組みを持たないまま、対米交渉を続けていることになる。

優遇関税の対象品目や実施時期は、今後の貿易委員会での話し合いを経て決まっていく見通しだ。越境EC事業者は、自分の扱う商品がこの優遇の対象に入るかどうかを含め、貿易委員会の進み方と、USTRによる対日関税の調査の行方を、両方こまめに確認しておく必要がある。特に、玩具や小型家電、季節雑貨など、米中間の優遇対象と重なる商品を扱う事業者は、関税の前提が数カ月のうちに変わる可能性を踏まえて、在庫や仕入れの計画を見直しておいた方がよい。

On September 28, the Japan External Trade Organization (JETRO) reported on the outcomes of the third U.S.-China summit held by the Trump administration. Both leaders agreed to form trade and investment committees to apply favorable tariffs on consumer goods, although they did not officially confirm the extension of the suspension of tariffs and export restrictions set to expire on November 10. The committees aim to enhance market access and address barriers, with specific focus on agricultural products and consumer goods. However, Japan’s tariffs remain in a state of uncertainty due to different negotiation approaches compared to the U.S.-China discussions, highlighting the need for Japanese exporters to stay vigilant regarding evolving trade conditions.

この記事を書いた人

森 茂樹

元Web3ニュースメディア編集長。日本とオーストラリアで20年以上にわたり、記者・編集者、翻訳者、Webプロデューサーとして活動。日本ではエンターテインメント「ザテレビジョン」(KADOKAWA)ほか、豪州では「日豪プレス」の記者・編集者として従事した。

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