自治体・商工会議所、越境EC提携相次ぐ 中小海外進出後押し

自治体・商工会、越境EC提携相次ぐ―中小企業の海外進出を後押し

Published On: 2026-09-18|Last Updated: 2026-09-24|Categories: インサイト|By |

地方自治体や商工会議所が越境ECプラットフォーム事業者と提携し、地域中小企業の海外販路開拓を支援する動きが、2026年に入り相次いでいる。東京都、そして日本商工会議所の全国組織、愛媛県松山市が、それぞれ別の越境EC事業者と手を組み事業を進めており、個々の発表は目立たないものの、並べると官民連携の裾野が広がっている構図が見えてくる。

「自治体・商工会議所×越境EC」提携

2026年3月、東京都中小企業振興公社は「越境EC出品支援事業」の実務・運用領域を担う事業者としてGMOグローバルEC株式会社を選定したと発表した。株式会社JTBが事業全体を統括し、GMOグローバルECが海外ECモールへの出店支援から商品登録・翻訳、販売運用、データ分析、プロモーション施策までを一体的に担う仕組みだ。出品先はeBay(グローバル)、京東国際(中国)、Shopee(台湾・シンガポール)、Japan Finds byGMOの4モールで、出品料・手数料は無料、企業側の負担は国内倉庫への商品発送や返送、プロモーション用サンプルなどに限られる。売上は契約時の仕切値で企業に還元される仕組みだという。対象商材には2026年度から常温保管可能な加工食品も加わった。

募集は4月24日に締め切られ、公社の公式サイトには想定を上回る申し込みがあり募集を終了した旨の案内が出た。予定では5月上旬に審査会、中旬に結果通知、5月19日に採択企業向けの出品説明会を実施し、その後商品情報の提出と国内倉庫への発送を経て、準備が整った企業から順次掲載を始める設計だ。掲載期間は約1年、2027年2月末までとされている(参照:出品支援事業 募集ページ|東京都中小企業振興公社)。

同じ4月には、日本商工会議所が全国516商工会議所の会員事業者を対象とする「feel NIPPON」の委託先に、越境ECモール「ZenPlus」や海外向けプロモーションサービス「ZenPromo」などを運営するZenGroupを選定した。対象は飲食料品や玩具、雑貨、美容品、工芸品で、酒類や冷蔵・冷凍品は対象外とされた。4月1日から6月30日まで参加事業者を募り、9月1日より全国8地域24事業者の商品を対象とした海外販売が始まっている。

8月には松山市と楽天グループの地域創生事業が、市内事業者を対象に越境ECによる海外販路拡大事業の出品説明会を開いている。対象は楽天市場に限らず、他のECモールで既に販売実績を持つ事業者にも広げられており、越境ECを軸にした自治体・商工団体と民間事業者の組み合わせが、規模や地域を問わず進んでいることがうかがえる。

支援策に前例あり、変わったのは規模

官民連携によるEC支援自体は目新しい手法ではない。東京都中小企業振興公社の越境EC出品支援事業は平成30年度から続く枠組みで、運営を担う事業者もジェイグラブ(現GMOグローバルEC)を中心に交代しながら継続してきた。群馬県や川崎市も、令和6~7年度に同種の委託事業を同系列の事業者に発注している。国レベルでは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が経済産業省中小企業庁の事業の一環として、2016年時点で越境ECサイトの出店・構築費用を補助する制度を運用していたことが確認できる。この種の支援策自体は、少なくとも10年前から存在した。

変化しているのは規模と広がりだ。栃木県は2026年度、海外見本市出展や越境ECに要する経費を補助する「海外販路開拓・拡大支援事業費補助金」の事業計画募集を4月に始めており、都道府県単位の予算措置も広がりつつある。加えて、日本商工会議所のように全国516の会員組織を束ねる中央団体が単一の越境EC事業者と組む枠組みは、従来の自治体単位の委託事業とは対象母数の桁が異なる。

円安基調が長期化するなかで国内需要の伸び悩みを補う手段として越境ECへの関心が高まっていることに加え、自治体側にも地方創生関連の予算を執行する必要があり、双方の思惑が重なる形で、規模の大小を問わず提携事例が増えている段階にあるとみられる。

ZenPlusを運営するZenGroup自体も、個別の商工会議所と提携するケースは珍しくない。徳島商工会議所(2021年から)、尼崎商工会議所(2025年4月)、高松商工会議所、大分商工会議所(2026年5月)など、地域の商工団体との連携をこれまでも継続的に発表してきた。その意味で、feel NIPPONは全国516商工会議所を束ねる中央団体が委託先に選ばれた点が異例であり、ZenGroupにとって従来型の個別提携とは規模の異なる事業といえる。

資金の流れにも着目したい。東京都の事業は出品料・手数料を無料とし、企業側の負担は国内倉庫への発送や返送、プロモーション用サンプルなど実費部分に限られ、売上は契約時の仕切値で企業に還元される。事業費全体を公社が負担する完全委託型といえる。一方、ZenPlusは売上に応じた手数料を徴収するプラットフォーム型で、feel NIPPONはこの仕組みに商工会議所の信用力を組み合わせた形になる。

公的資金で運営コストを全額負担する方式と、民間プラットフォームの手数料モデルに公的な後押しを乗せる方式とでは、事業者側の負担も税金の使われ方も異なり、一概に優劣を評価することはできないが、税金や会費を原資とする以上、費用対効果の説明責任は今後問われやすくなるだろう。

「委託先決定」止まりの段階―実効性検証はこれから

もっとも、現時点で公開されている情報の範囲では、これらの取り組みの多くが「委託先決定」や「事業開始」の段階にとどまる。東京都の事業では、公社公式サイトの出品モール紹介ページが8月時点でも「Coming Soon」の表示のままで、採択企業数や企業名、実際の掲載開始日、モール別の出品点数や売上といった情報は公表されていない。公社は採択結果を個別のメール通知にとどめ、審査内容に関する個別の問い合わせにも応じない方針だという。

過去年度の実績も、成果は翌年度以降の事例紹介ページで一部が紹介される形が中心で、今年度分の事例はまだ出ていない。一方で、次年度の募集案内を希望する事前登録フォームは、今年度の成果公表を待たずに既に用意されている。事業の歯車は今年度の「出口」の検証を待たず、来年度の「入り口」の準備へと先に回り始めている構図だ。発表が集中する時期と、成果が可視化される時期の間には、通常数カ月から1年単位のずれが生じるため、現段階で効果の有無を判断するのは時期尚早ともいえるが、少なくとも横並びで比較できる材料は乏しい。

官民連携の意義は、地方の中小事業者が単独では負いきれない言語対応や国際配送、集客のコストを、公的機関の信用力と民間プラットフォームの実務機能で肩代わりする点にある。一方で、参加事業者数や対象地域の広さといった「入り口」の指標は各発表で強調されやすいのに対し、実際に海外で売れたかという「出口」の指標は、現状ではほとんど検証可能な形で公表されていない。

委託事業である以上、成果の公表時期や範囲は発注者側の判断に左右される面もあるが、越境EC事業者を選ぶ立場にある中小事業者にとっては、実売実績の開示状況そのものが提携先を見極める材料になり得る。

Japan’s municipalities and chambers of commerce are increasingly partnering with cross-border e-commerce platforms to support local SMEs in expanding their overseas sales channels in 2026. Tokyo, the Japan Chamber of Commerce, and Matsuyama City are collaborating with different e-commerce firms, showcasing a growing trend in public-private partnerships aimed at enhancing international business opportunities for regional businesses. While these initiatives are in early stages, their impact on actual overseas sales remains to be seen.

この記事を書いた人

森 茂樹

元Web3ニュースメディア編集長。日本とオーストラリアで20年以上にわたり、記者・編集者、翻訳者、Webプロデューサーとして活動。日本ではエンターテインメント「ザテレビジョン」(KADOKAWA)ほか、豪州では「日豪プレス」の記者・編集者として従事した。

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