
TikTok Shop、英国で中小30万社突破―越境ECセラーの実態は
動画共有アプリのTikTokが運営するEC機能「TikTok Shop」で、英国で出店する中小事業者が30万社を突破した。欧州の小売メディア大手「Ecommerce News」が5日、報じた。運営会社によると、新規セラーの参加は前年比2倍に増え、ライブ配信経由の売上も55%伸びた。もっとも英国での出店にはUK法人が必要で、その出店者の中身を見ると、中国拠点の越境ECセラーが多い。急拡大の裏側で、個人セラーは越境の枠から締め出されつつある。
TikTok Shop、英国で新規セラー2倍=ライブ配信が牽引
英国のTikTok Shopは2021年のサービス開始後、その後20万社を超え、直近で30万社に達した。英国の全オンライン事業者約400万社の一角を占める規模だ。
同社の英国責任者ヤン・ウィルク氏は、老舗小売から初めて商品を売る創業者まで参加が広がったと述べた。
成長を支えるのがライブ配信である。英国では1日6,000件超のライブ販売が行われ、ライブ経由売上は前年比55%増えた。同社によれば、美容ブランドの創業者が1回の配信で10万ポンドを売り上げた例や、精肉店が3時間の配信で通常3〜4日分に相当する8,000ポンドを販売した例もある。同社は、こうした好調が卸取引や実店舗展開など他チャネルへ波及する「ハロー効果」も強調している。英国消費者の4割超がTikTok経由で商品を買った経験を持つとされ、買い手の裾野も広がっている。
30万社の内実、越境ECセラーがUK法人で参入
もっとも、30万社という数字は「英国の中小企業」の実数とは単純に重ならない。英国のTikTok Shopは、出店にUK法人・英国内の住所・英国の銀行口座をすべて求めており、非英国企業は直接登録できない。つまり30万社は英国で法人登録した事業者の数であって、経営者の国籍を映すものではない。
この登録要件が、かえって越境セラーの受け皿になっている。海外の事業者でも、英国に有限会社(Ltd)を設立すれば出店でき、経営者の居住要件もない。実際に法人設立を代行するサービスも広がる。中でも中国のセラーの参入が目立つ。TikTok Shopが米英向けに用意する越境(グローバルセリング)の出店枠は、中国本土・香港で登記された法人に限定されているためだ。英学術誌「Policy & Internet」にに掲載された研究も、TikTok Shopの供給元が現地の小売店から中国拠点のセラーへ移り、中国のサプライチェーンが現地の物流・倉庫・決済事業者との提携を通じて同社の世界的なEC網に組み込まれていると分析している。
結果として、「英国の中小企業30万社」には、UK法人を通じて参入した外国資本のセラーが相当数含まれるとみられる。ただしTikTokはセラー総数を示す一方で、越境・外国資本の比率は公表しておらず、正確な内訳は不明だ。他方で、マークス・アンド・スペンサー(M&S)など英国の大手小売や新興ブランドの出店も相次ぎ、英国は欧米でTikTok Shopが最も成熟した市場と位置づけられている。セラーは、ローカルの中小・大手と越境勢が入り交じる構図といえる。
個人は越境枠から締め出し、日本勢は現地法人が前提
出店者の選別も進む。TikTok Shopは米英の越境ストアの出店基準を引き上げ、越境セラーを中国本土・香港で登記された法人に限定し、個人事業主や個人セラーを受け付けなくなった。設立から60日以上といった要件も課され、参入の門戸は現地法人を伴う事業者へと絞られつつある。
この構造は日本勢にも及ぶ。米国のセラーセンターは米国内と中国・香港のセラーを主対象とし、それ以外には現地法人の設立を求める。EUでも販売国での登記法人、現地の付加価値税(VAT)番号、域内の返品住所、製品安全規則(GPSR)に基づく責任者の指名が要る。日本のセラーが英米の買い手に売るには、現地法人か運営代行が事実上の前提だ。関税面でも、EUは2026年3月に150ユーロの少額免税制度を廃止し、越境モデルのコスト増を招いている。
日本国内のTikTok Shopは2025年6月に始まり、法人・個人事業主のいずれも出店できるが、対象は国内市場に限られる。海外の買い手に売る局面では、国内出店ほどの手軽さは働かない。
(本稿は2026年8月時点の公開情報に基づく。TikTokはセラー総数を公表する一方、越境・外国資本セラーの比率は開示していない。本文の「外国資本のセラーが相当数含まれる」は、UK法人要件、越境出店枠の中国・香港限定、および学術研究からの推定であり、具体的な社数・比率を示すものではない。出店条件・手数料・越境セラーの受付基準は変更される可能性があるため、公開時点での再確認を推奨する。英国の提供開始時期は資料により「2021年9月」「2021年末」と差があり、本文では「2021年」とした。)







