紅海航路、封鎖と再開が交錯 原油100ドル超で越境EC物流の見通しをどう立てるか

紅海航路、回帰と再燃が交錯―原油100ドル超で越境物流の見通しをどう立てるか

Published On: 2026-09-17|Last Updated: 2026-09-18|Tags: , |Categories: インサイト|By |

Photo courtsey of NASA

イエメンの親イラン武装組織フーシ派が9月、紅海の要衝バブエルマンデブ海峡沿岸のモカ港やペリム島を制圧し、海峡への圧力を強めた。原油はWTIが5月以来の100ドル台に乗せた。スエズ運河への回帰が進み始めた矢先の再燃で、アジア欧州航路の先行きは一段と読みにくい。越境EC事業者には単一の予測に賭けない備えが問われる。

紅海航路の回帰を揺さぶる「第2の海峡」封鎖懸念

フーシ派は9月上旬、紅海沿岸の港湾都市モカに続き、海峡の中央に位置するペリム島やハニシュ諸島を制圧した。これにより、同派は紅海の南の入り口にあたるバブエルマンデブ海峡の支配を一段と強めた。報道によると、原油はブレントが一時4%上昇し、米国のディーゼル価格は1ガロン6ドルを超えた。サウジアラビアが湾岸から紅海沿岸へ原油を運ぶ全長1200キロの東西パイプラインも、9月10日のドローン攻撃で停止した。復旧には3〜5週間かかる見通しで、数日内に再開しなければ世界の石油供給量の約4%が失われるとの分析もある。

国際政治学者の六辻彰二氏は、「米国は7月からサウジアラビアとの関係強化を進めた。これがイランの不信感を高め、紅海封鎖のきっかけになった」とサウジが本格的な軍事対応に動きにくい事情を指摘している。

2月以降の米国とイランの軍事衝突でホルムズ海峡の通航に不安が残るなか、その代替として重要性を増していた紅海ルートにも封鎖懸念が及ぶ「二重の海峡リスク」が意識され始めた。

野村総合研究所の木内登英氏は、WTIが9月11日に5月以来の100ドル台に乗せ、原油高が物価の上振れを長引かせる可能性を指摘する。日本経済新聞は、ホルムズ海峡の封鎖に加え、輸送網や生産拠点そのものが次々と破壊される「新たなフェーズ」に入ったとみている。海運分析大手のSea-Intelligenceによると、9月の紅海航路の正常化率は平均27%まで戻っていたが、今回の再燃はこの流れを揺さぶりかねない。

輸送と原油の見通しはシナリオで捉える

先行きは、単一の予測ではなくシナリオで捉える必要がある。戦争に絡む事象は不確実性が大きく、確度の高い価格予測は難しいためだ。上振れ方向では、バブエルマンデブとホルムズの二重の封鎖懸念やサウジの石油インフラへの攻撃が供給不安を高め、運賃と原油を押し上げる。

国際エネルギー機関(IEA)は、米イラン戦争により中東からの通常の供給回復が2027年にずれ込むとの見方を示す。下振れ方向では、OPECプラスの増産や、コンテナ船の大量の新造船竣工による船腹増が価格の下押しに働く。迂回で吸収されていた世界の船腹の約8%は、スエズ回帰が進めば市場に戻る。

輸送面でも見方は割れる。Sea-Intelligenceは年内にアジア欧州航路の大半がスエズへ戻る可能性を示していたが、今回の再燃は喜望峰回りへの再逆流を招く余地もある。過去にも紅海回帰は二度の揺り戻しを経ている。

証券会社や銀行の調査部門も、単一の予測ではなく、情勢の展開に応じた複数のシナリオで原油や運賃の見通しを示すのが一般的だ。例えば野村證券は、ホルムズ海峡を巡る展開に応じた悲観・楽観の複数シナリオ別に原油価格の見通しを示している。供給不安は数字にも表れている。

英HSBCは、東西パイプラインの停止が1カ月続けば、9月中旬から10月中旬に世界の石油市場が日量約600万バレルの供給不足に陥り得ると試算した。もっとも、その後サウジはパイプラインの復旧を進め、原油相場は下落に転じた。復旧が順調に進めば、この供給不足は回避され得る。他方、封鎖の象徴となったペリム島は、攻撃は容易でも奪還が難しい。

六辻氏は、サウジがフーシと全面衝突すれば本土への報復や原油高、背後のイランとの決定的対立を招くため動きにくいとして、「紅海封鎖」の長期化を見込んでいる。

どうやら、上振れシナリオの現実味は、以前より高まっている。原油と運賃の先行きは、上振れと下振れの双方が意識される、振れ幅の大きい局面が続いている。

重要なのは、どのシナリオが実現しても対応できる幅を持っておくことだろう。特定の展開に賭けた計画は、前提が崩れた際の損失が大きくなる。越境ECの実務に引き直せば、上振れシナリオでは欧州向けの調達コストと納期が再び悪化し、下振れシナリオでは運賃低下の恩恵が広がる。どちらに転んでも動けるよう、前提を一つに固定しないことが求められる。

見通しの立て方——監視すべき先行指標

見通しは一度立てて終わりではなく、先行指標で継続的に更新するのが実務的だ。海運では、バブエルマンデブやスエズ運河の通航隻数、戦争リスク保険料や緊急サーチャージの水準、船社が出す運航情報や欠便(ブランクセーリング)の動きが、回帰と逆流のどちらに向かうかを早く示す。運賃では、コンテナ運賃指数の推移が需給の変化を映す。

原油・燃料では、ブレントやWTIの水準に加え、先物のフォワードカーブ(期近と期先の価格差)が、市場が供給不安をどの程度・どの期間織り込んでいるかを示す。期近が期先を上回る状態が強まれば、当面の需給逼迫への警戒が高いと読める。

船舶の燃料であるバンカー価格も、時間差で海上運賃に波及する。これらを定点観測し、複数の指標が同じ方向を示したときに計画を見直す——という運用が、勘に頼らない見通しづくりの基本となる。単独の指標や一度の報道で判断を振らせないことが要点だ。

越境EC事業者のリスクヘッジ実務とは?

物流に限った話ではないが、読み切れない事態への備えで大事なのは、予測を当てにするより、外れても大きく損をしない形を先に整えておくこと。

製造業の供給網を調べたMcKinseyの調査でも、仕入れ先を一社に頼らず分散しつつ、在庫を少し厚めに持つことが、混乱に強い企業の共通点として挙がる。越境ECの物流でも考え方は同じだ。

まず、運ぶ経路と配送会社を1つに絞らないこと。スエズ運河一本に頼らず、喜望峰回りや別のハブ港も使える状態を残しておけば、片方が止まっても切り替えられる。次に、在庫の置き場所だ。売る市場の近く、たとえば欧州の倉庫やフルフィルメント拠点にある程度の在庫を置いておけば、輸送が止まったときの緩衝材(バッファ)になる。ただし、在庫は多いほどコストもかさむため、どこまで持つかの線引きは必要。

ルート図はイメージです

契約も、固めすぎないほうがいい。運賃が高いときに長期で固定すると、あとで相場が下がっても高いまま払い続けることになる。運賃指数に連動させる指数連動契約や、途中で見直せる条項を組み込む手もある。急ぎの荷物や単価の高い商品なら、航空や鉄道を併用する選択肢もある。もっとも航空も燃料高の影響は受けるため、万能ではない。どれを選ぶかは、扱う商品や送り先、コストの掛け方によって変わる。

このなかで、効果がはっきり数字で確かめられているのが、買い手への伝え方。国際物流大手Landmark Globalが北米の消費者に行った調査では、海外通販をためらう最大の理由は「あとから請求される関税・税金」で、逆に、注文時に関税をまとめて前払いできるなら買いやすいと答えた人が約7割に上った。

だから、関税や税を含めた最終的な支払額と、現実的な到着予定を注文前にはっきり示す。遅れたときは追跡情報とこまめな連絡で補う。こうした対応は、カゴ落ちや受け取り拒否を実際に減らす効果が見込める。

もっとも、ここで挙げた備えが自社に効くかどうかは、扱う商品や送り先、契約の中身によって変わることには留意したい。

Just as container carriers were tentatively returning to the Suez Canal — Sea-Intelligence put the Red Sea route’s “normalization rate” at about 27% in September, led by the Europe-to-Asia backhaul — Iran-backed Houthi forces seized Yemen’s Mokha port and Perim Island in the Bab el-Mandeb Strait, and oil (WTI) climbed back above $100 for the first time since May. Because war-driven events are inherently unpredictable, the piece argues that shippers should not bet on a single forecast but instead think in scenarios, tracking leading indicators such as chokepoint transit counts (IMF PortWatch), war-risk insurance premiums, container freight indices, and oil futures curves.

For cross-border e-commerce operators, it lays out concrete risk-hedging measures — diversifying routes and carriers, positioning buffer inventory near demand (e.g., European warehouses), keeping contracts flexible, and using air or rail as backups — while noting these are established practices whose fit depends on each company’s situation. The one tactic with hard survey evidence behind it is customer-facing transparency: Landmark Global found hidden duties and taxes are the top deterrent to overseas purchases, so showing the full landed cost and realistic delivery dates upfront measurably reduces cart abandonment. It closes by stressing that the outlook remains two-sided and volatile, as Saudi Arabia has begun restoring its damaged East-West pipeline and oil has since eased.

この記事を書いた人

森 茂樹

元Web3ニュースメディア編集長。日本とオーストラリアで20年以上にわたり、記者・編集者、翻訳者、Webプロデューサーとして活動。日本ではエンターテインメント「ザテレビジョン」(KADOKAWA)ほか、豪州では「日豪プレス」の記者・編集者として従事した。

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