
EU越境EC規制、2026年11月からのPID義務化対応を解説
EUでは2026年11月1日から、域外から消費者へ遠隔販売する輸入品について、製品識別子(PID)の税関提出が義務化される予定です。金額や負担先は未発表ですが、EU域外からの商品を対象にした取扱手数料も導入される見込みです。
本記事では、PIDの対象と実務対応、2026年7月に始まった3ユーロ関税との違い、取扱手数料、 PID義務化に向けて日本の事業者が準備すべきことを解説します。
1. EU越境EC規制、2026年11月以降の主な変更点

2026年の制度変更は、免税廃止に伴う3ユーロ関税、製品識別コード(PID)義務化、取扱手数料の導入の3点です。
- 2026年11月1日|商品ごとのPID提供が必須に
EU域外からEUの消費者へ商品を販売する際は、製品識別コード(PID)を税関へ提供する必要があります。10月31日までは任意提供期間で、未提出や不正確なPIDを理由とする制裁は行われません。(参照:EUR-Lex|欧州委員会委任規則(EU)2026/1022、欧州委員会|3ユーロ関税とPIDに関する税関ガイダンス) - 2026年7月1日|150ユーロ以下の対象貨物に3ユーロの関税
150ユーロ以下の関税免除を廃止し、対象貨物には申告上の品目ごとに3ユーロの暫定関税がかかります。(参照:欧州委員会|少額貨物への3ユーロ関税に関する解説)
関連記事:EUの越境EC規制・対応まとめ - 2026年11月1日までに導入予定|取扱手数料
遠隔販売される輸入品に、3ユーロの暫定関税とは別の取扱手数料を設ける予定です。欧州議会は1品目あたり2ユーロとする委任規則を採択しましたが、適用はまだ始まっていません。(参照:EU理事会|EU関税制度改革の最終承認) - 2028年7月1日|EU税関データハブの利用が一部事業者に必須に
遠隔販売の輸入者やIOSSの利用者は、対象となる輸入手続きの情報をEU共通の税関システム「EU税関データハブ」で提供する必要があります。EU向けECに関わるすべての事業者が、この日から一律に対象となるわけではありません。(参照:EUR-Lex|新EU関税法・第285条) - 2034年3月1日|データハブの利用義務が拡大
EU税関データハブを通じた情報提供は、輸入者、輸出者、通過手続きの保持者にも義務付けられます。(参照:EUR-Lex|新EU関税法・第285条)
関税と手数料の違いに注意
7月1日に開始した3ユーロ関税と、11月1日に開始する取扱手数料は別の制度です。
3ユーロ関税は、150ユーロ以下の関税免除が廃止されたことに伴い導入された暫定的な関税で、申告上の品目ごとに3ユーロが課されます。取扱手数料は、増え続ける小口貨物の処理・検査費用を賄うための制度で、EU理事会は2026年9月3日、11月1日までにEU統一の取扱手数料を導入すると発表しました。
申告者(販売者や配送会社など)に課される見込みですが、欧州委員会は2026年6月時点のガイダンスで、具体的な金額や消費者への転嫁方法については未定としています。対象となる取引によっては、3ユーロ関税と取扱手数料が同時に発生する可能性があります。
(参照:欧州委員会|3ユーロ関税に関する解説、欧州委員会|3ユーロ暫定関税とPIDに関する税関ガイダンス、EU理事会|EU customs: Council greenlights landmark reform、欧州委員会|取扱手数料に関するガイダンスと法的根拠)
なお、本記事の執筆時点(2026年9月)では、11月以降の事項は開始前です。最新の適用状況は、欧州委員会のEU関税制度改革の解説ページで確認してください。
2. EUが越境EC規制を強化する背景は?
11月からの規制強化には、中国発ECからの小口貨物の急増により、EUの安全基準を満たさない安価な製品が大量に輸入されているという背景があります。EUが2025年に扱ったEC貨物約60億個のうち、9割超が中国から到着し、小口貨物は同年の輸入貨物件数の97%を占めています。また、EUの合同税関検査では、玩具と小型電子機器約2万点の半数以上がEUの商品基準に適合しておらず、別の調査では、化粧品やサプリメント、保護用具でも高い不適合率が報告されています。
関連記事:仏ウルトラファストファッション規制、SHEIN・Temu狙い撃ち=中国側は「保護主義」批判
PIDの提出義務化により、商品、メーカー、販売ページ、申告データが結びつくため、EU側はリスクがある商品を横断的に抽出しやすくなります。税関はPIDを危険品や規制不適合品の検知にも活用する方針です。 (参照:EU理事会|EU関税制度改革を最終承認、欧州委員会|域外EC商品の合同税関検査結果、欧州委員会|EC輸入品の製品適合性調査)
こうした状況を受け、EUは域外から消費者へ商品を直接販売する事業者や、その遠隔販売を仲介するECプラットフォームを輸入者として扱う見込みです。対象事業者は税関へのデータ提出、関税などの支払いまたは保証、商品のEU法令適合を担います。
関連記事:EU、越境ECの関税規制を強化ー越境EC事業者を輸入者扱い
3. 11月から記載・送信が義務化される製品識別コード(PID)とは?

製品識別コード(PID)とは「Product Identifier」の略称で、輸入商品をモデルや仕様ごとに識別・追跡するための英数字コードです。
欧州委員会委任規則(EU)2026/1022では、PIDを商品やバッチなどに付与し、販売から供給、市販後の管理まで、サプライチェーン全体で商品を正確に識別するための番号と定義しています。同じブランドでも、サイズ、色、容量、包装などが異なる場合は、それぞれを区別できる識別子が必要です。
10月31日までの移行期間は、未提出や不正確なPIDを理由とする制裁は行われません。欧州委員会のガイダンスは法的拘束力を持たないため、実務では規則本文と各国税関の運用も確認する必要があります。(参照:EUR-Lex|欧州委員会委任規則(EU)2026/1022、欧州委員会|3ユーロ暫定関税とPIDに関する税関ガイダンス)
対象は商品の価格ではなく販売形態で判断
PIDの対象となるのは、EU域外から消費者に向けて遠隔販売される輸入品です。150ユーロ以下のEC貨物に使うH7申告、一定の郵便貨物に使うH6申告、通常の輸入に使うH1申告のいずれでも、対象となる取引ではPIDを提供します。
使用する申告区分は、貨物の価格や配送方法に応じて物流・通関事業者が判断します。販売者は、どの申告区分でも必要なPIDを引き渡せるよう、商品管理データと物流・通関データを連携させる必要があります。
税関申告では、申告上の品目ごとにPIDを付けます。例えば、同じ注文にTシャツとマグカップが含まれる場合は、注文番号だけでなく、それぞれの商品に対応するPIDが必要です。(参照:EUR-Lex|欧州委員会委任規則(EU)2026/1022)
税関へ提供する3種類の製品識別コード(PID)
新制度では、販売者側とメーカー側の識別子を組み合わせ、商品の販売情報と製造情報を確認できるようにします。
- M-PID(Merchant Product Identifier)
オンライン販売者、マーケットプレイスまたはプラットフォームが商品に付与する識別子です。対象取引では必ず提供します。 - NS-PID(Non-standardised Manufacturer Product Identifier)
メーカー、製造者または供給者が独自に付与する商品番号です。既存の番号がない場合は、新たに設定する必要があります。 - S-PID(Standardised Manufacturer Product Identifier)
EANやISBNなど、国際標準に基づく商品識別子です。番号が存在する場合に提供します。
税関申告では、M-PIDに「C127」、NS-PIDに「C128」、S-PIDに「C129」を使用します。標準識別子が存在しない場合は「Y081」を申告します。一部の農水産物、手工芸品、骨董品には例外的な申告方法があり、医療機器にはUDI-DIをS-PIDとして扱う特則も設けられています。該当する事業者は税関ガイダンスを確認してください。(参照:欧州委員会|3ユーロ暫定関税とPIDに関する税関ガイダンス)
4. PID義務化に向けた事業者の対応は?
PIDを正しく申告するには、販売者から税関申告者まで、商品ごとの識別子を引き継ぐ必要があります。各事業者の主な役割は次の通りです。
| 事業者 | 主な対応 |
|---|---|
| 販売者・ECプラットフォーム | 商品バリエーションごとにM-PIDを用意し、受注データとともに物流事業者などへ渡す |
| メーカー・供給者 | NS-PIDと、存在する場合はEANやISBNなどのS-PIDを販売者へ提供する |
| 物流事業者・税関申告者 | 販売者から受け取ったPIDを税関申告データへ反映する |
日本の越境EC事業者は、2026年11月1日の義務化に向け、次の4項目を確認しておきましょう。
- 商品マスターを整備する
自社SKU、メーカー品番、EAN、ISBNを棚卸しし、M-PID、NS-PID、S-PIDを商品マスター上でひも付けます。サイズや色、容量、包装が異なる商品は、それぞれを識別できるコードが必要です。 - 物流・通関事業者との連携方法を確認する
PIDをどの項目で渡すのか、CSVやAPIの改修が必要かを配送会社や通関業者へ確認します。受注から税関申告まで、商品単位の識別子が欠落しない運用を整えます。 - 関税と手数料を価格へ反映する
3ユーロの暫定関税と取扱手数料は別の制度です。暫定関税は申告上の品目ごとに課されるため、Tシャツ5枚のみなら3ユーロ、Tシャツと腕時計を同梱すれば計6ユーロとなります。送料、VAT、関税、手数料の負担者を確認し、販売価格と利益率を再計算する必要があります。 - 輸入者と法令適合の責任を明確にする
自社、マーケットプレイス、物流事業者のうち、誰が輸入者となるのかを契約と販売形態から確認し、あらかじめ定めておきましょう。
(参照:欧州委員会|3ユーロ暫定関税とPIDに関する税関ガイダンス、欧州委員会|少額貨物に対する3ユーロ関税の解説)
5.大手物流会社もPID提出への対応を開始
大手物流会社は、2026年11月1日のPID提出義務化に向けて、送り状作成システムやAPIの改修を進めています。利用する配送サービスによって入力方法や対応時期が異なるため、販売事業者は送り状の作成画面、API、CSVなどでPIDをどのように渡すのかを各社へ確認する必要があります。
DHL Express
EU向けB2C貨物について、商品ごとのM-PIDとNS-PIDを用意し、商品カタログや税関書類を見直すよう荷主に案内しています。
FedEx
FedEx Ship ManagerとFedEx APIにPIDの入力機能を追加しました。11月以降はPIDがなければ送り状を作成できず、通関の保留や発送元への返送につながる可能性があると説明しています。
6. EU関税改革の成立状況とデータハブへの移行
EUの関税制度改革は、EU理事会と欧州議会での採択を終えました。今後は規則への署名とEU官報への掲載を経て施行され、準備期間を設けながら段階的に新制度へ移行します。
改革の柱の一つが、税関手続きに使うシステムの共通化です。現在はEU加盟国ごとに異なる111以上の税関システムが使われていますが、今後は「EU税関データハブ」と呼ばれる共通基盤に集約されます。事業者が商品や輸送に関する情報を一度登録すれば、EU域内の税関当局が共通して利用できる仕組みを目指します。
EC事業者は2028年7月1日からデータハブの利用が義務となる予定です。2031年からはほかの輸入者も任意で利用でき、2034年3月1日には原則としてすべての貿易事業者へ対象が広がります。
データハブを管理する新たなEU税関当局は、フランスのリールに設置され、2027年に業務を始める予定です。各国から集まる輸出入データを分析し、検査が必要な貨物や法令違反の可能性がある商品を見つけやすくする役割を担います。
日本の越境EC事業者にとっては、国ごとに異なる税関システムへ個別に対応する負担が軽減される可能性があります。一方、商品情報を共通基盤へ正確に提供できるよう、商品マスターや物流・通関事業者とのデータ連携を整えておく必要があります。(参照:EU理事会|EU関税制度改革を最終承認、欧州議会|EC・関税の新規則を採択、欧州委員会|EU関税制度改革の概要)
7.まとめ|商品データと通関体制の見直しが重要
2026年11月以降のEU向け越境ECでは、税負担の増加と商品データ要件の強化が同時に進みます。次の3点を押さえ、欧州委員会の関税制度改革ページなどで最新情報を確認しながら準備を進めましょう。
- PIDを商品単位で管理する
M-PID、NS-PID、S-PIDを整理し、販売データから税関申告まで引き継げるようにします。 - 関税と手数料を分けて確認する
3ユーロ関税は申告上の品目単位で課され、取扱手数料は別制度です。VATを含め、購入者と事業者の負担額を確認しましょう。 - 輸入者責任を明確にする
プラットフォーム、物流会社、通関業者との役割分担を確認し、EU法令への適合体制を整えます。
Starting November 1, 2026, the EU will mandate the submission of Product Identifiers (PID) for imported goods sold remotely to consumers from outside the EU. This regulation aims to enhance the identification and tracking of products, amid rising concerns over safety and compliance, particularly due to the surge in small parcel shipments. Alongside the PID requirement, a handling fee will also be introduced for such imports, marking a significant shift in cross-border e-commerce regulations. Japanese cross-border e-commerce businesses need to prepare by establishing robust product master data and ensuring compliance with these upcoming changes.




